種別 論文
主題 酸性溶液の作用をうける繊維補強セメント硬化体の挙動
副題
筆頭著者 藤井卓(東京農工大学)
連名者1 中村晃(東京農工大学大学院)
連名者2
連名者3
連名者4
連名者5
キーワード
16
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先頭ページ 907
末尾ページ 912
年度 1994
要旨 1.まえがき
 酸性雨の地域的拡大と濃度の増大が、年々、著しくなる状況にあり、生態系など環境への影響が問題となっているが、コンクリート構造物の被害も今後急速に顕在化してくるものと考えられる。根本的な解決は、SOx、NOxなどの排出を抑制することにあるが、その対象がわが国のみならず地球規模での解決が必要となる課題だけに早期の解決は困難であり、現時点ではコンクリート自体の抵抗性の向上が差し迫った課題となっている。
 酸性溶液のコンクリートヘの影響に関する研究は、酸性土壌あるいは酸性表流水によるコンクリートの被害を対象として古くから行われてきているが、酸性雨を対象とした研究は最近のことである。酸性表流水の作用をうけるコンクリート構造物が、地域的に比較的限定された範囲で、しかも構造物としては地盤付近における影響が大きいのに対して、酸性雨の場合は地理的に広範囲であり、さらに構造物の上面部分に達した酸性溶液は内部へ浸透して、劣化が徐々に進行し損傷が潜在化するため、酸性表流水の場合よりも問題は一層深刻であると考えられる。
 本研究においては、酸性雨の作用をうけるコンクリートの表面保護用被覆材としてのセメント系複合材料利用の可能性を検討するため、プレーンペーストおよび高炉スラグ微粉末を添加したペーストに炭素繊維あるいはアラミド繊維などの短繊維を混入した複合セメント硬化体を酸性溶液中に浸漬し、セメント系複合材のCa(OH)2溶出と強さに及ぼす織稚の種類および酸性溶液の濃度などの影響を、浸漬溶液のpHとCa2+イオン濃度の変化および硬化体の残留Ca(OH)2量と微小硬度の面から検討した。
4.まとめ
 水結合材比30%のプレーンペーストおよび高炉スラグ微粉末を添加したペーストに炭素繊維あるいはアラミド繊維などの短繊維を混入した複合セメント硬化体を酸性溶液中に浸漬し、浸漬溶液のpHとCa2+イオン濃度の変化および硬化体の残留Ca(OH)2量と微小硬度を測定し、繊維補強セメント硬化体の物性に及ぼす繊維の種類および酸性溶液の濃度などの影響を検討した。本研究の結果をまとめると次のとおりである。
(1)浸漬溶液のpHの経時変化は、pH1浸漬溶液ではpH12からpH2へと大きく低下したが、pH3・pH5浸漬溶液では初期段階からpH12を保持し両者に大きな差はなかった。複合セメント硬化体の種類による相違はBS系がCFAFよりpHの低下が早く、BS系ではBSCFがBSAFより早かった。
(2)浸漬溶液のCa2+イオン濃度は徐々に低下し、最終段階においてはpH1浸漬溶液の場合の方がpH3、pH5より大きく、pH1浸漬溶液ではBSCF、BSAF、CFAFの相違は明確ではないが、pH3・pH5浸漬溶液ではBSCF、BSAFはほぼ同じであり、CFAFが若干大きかった。なお、pH3・pH5浸漬溶液の差は認められなかった。
(3)浸漬溶液のpH変化とCa2+イオン濃度変化との間には強い相関があり、Ca2+イオン濃度の増加は、主としてCa(OH)2の溶出に起因すると判断されるが、pH1溶液では一部にC−S−Hその他の水和物からのCa2+イオン溶出も推測される。
(4)強留Ca(OH)2量はいずれのpHの浸漬溶液においてもBSCF<BSAF<<CFAFとなり、pHおよびCa2+イオン濃度におけると同様の傾向を示した。いずれの硬化体においてもpH1浸漬溶液の場合が最も少なく、pH5浸漬溶液の方がpH3浸漬溶液に比へて若干少ない傾向示した。
(5)硬度はいずれのpHの浸漬溶液においてもBSAF<BSCF<CFAFとなり、PH1浸漬溶液の場合が最も小さく、次いでpH5となりpH3の場合が最も大きかった。硬度のpHによる相違の傾向は、残留Ca(OH)2量の場合と同様の傾向を示した。
 以上のように酸性溶液の作用をうける高炉スラグ微粉末を添加した繊維補強セメント硬化体の挙動は浸漬溶液のpH値ばかりでなく高炉スラグ微粉末添加の有無、繊維とマトリクスの相互作用など、複雑な要因に影響されていることが明らかとなった。
PDFファイル名 016-01-1150.pdf


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