種別 論文
主題 酸性雨によるコンクリート構造物の劣化機構に関する考察
副題
筆頭著者 小林一輔(千葉工業大学)
連名者1 字野祐一(ショーボンド建設)
連名者2  
連名者3  
連名者4  
連名者5  
キーワード
13
1
先頭ページ 615
末尾ページ 620
年度 1991
要旨 はしがき
近年、欧米諸国では酸性雨による環壊破壊が深刻な問題になっている。これまでの段階において、酸性雨による被害は森林や湖沼などの破壊が顕在化しており、土木や建築関係の構造物の被害については石灰岩を用いた石造建築物の表層劣化が明らかにされているに過ぎない。しかし、酸性雨が環境に与える影響は化学的な過程によるものであり、このことは、酸性雨によって構造物に劣化が進行していたとしても、その影響が顕在化するまでにはある程度の時間を要することを意味する。現在、コンクリート構造物が酸性雨によってどのような影響を受けるのか?もし何らかの影響を受けるとすれば、その条件は何か?という点に関する基礎的な検討はほとんど行われていない。本文は、緩慢な化学的過程を経て劣化が顕在化する可能性があるような問題については、できる限り早い時点から問題点の整理と劣化機構の解明に着手しておくことが重要であるとの観点に立って、酸性雨によるコンクリート構造物の劣化機構と劣化が生じる条件について、著者らの見解を示したものである。
結び
以上の論旨を要約すると以下の通りである。1)酸性雨によって劣化を生じるコンクリート構造物は、ひびわれなどの欠陥を有する構造物であり、また、炭酸化が顕著に進行している構造物である。2)酸性雨の影響を受けるようなコンクリートの内部に酸性雨が繰り返し浸透した場合には、C-S-Hも含めたセメント硬化体組織の分解が生じる。分解した成分のうち、細孔溶液中にイオンとして溶け込んでくる主なものはCa2+とHCO3-であって、これは炭酸カルシウムのイオン解離によって生じる。3)酸性雨の浸透によってPHの低下した溶液と炭酸カルシウムとの反応によって二酸化炭素が発生し、コンクリート内部における二酸化炭素の濃度を高める。二酸化炭素の発生は溶液がコンクリート内部の気泡内に流入した場合にも生じる。このようにして二酸化炭素の濃度が増すことは溶液の酸性をあるレベルに保持させる役割を果たすと同時に、コンクリート組織内部における未炭酸化部分の炭酸化を促進させる。4)コンクリート構造物に生じる石灰質から成る、いわゆる“つらら”は酸性雨の作用によって溶解したセメント硬化体成分を含む溶液がひびわれを伝わって大気中に流出する際に生じたものである。この場合、大気中の二酸化炭素を取り込んで“つらら”が形成されるのではなく、溶液中に存在するCa2+とHCO3-の脱ガス反応、すなわち、二酸化炭素が大気中に放出される結果、生じるものである。5)いわゆる“つらら”は酸性雨のみによって生じるものではない。地中構造物のように土壌中の二酸化炭素を通じて酸性化した雨水が供給されれば、酸性雨とは無関係に“つらら”が生じる。また、ほとんど中性に近い雨水によっても、溶け込んでいる二酸化炭素の作用によって炭酸カルシウムの溶解は生じる。問題は溶解の速度である。6)わが国に限定して考えれば、酸性雨は大気汚染防止法が施行される以前の方が局地的には盛んに降り注いでいたと考えられる。第2次大戦前のコンクリート構造物に“つらら”が生成していたとすれば、それは酸性雨と全く無関係であると断じることはできないと考えられる。すなわち、工業国では程度の差こそあれ、自然環境中に存在するものは常に酸性雨の影響を受けていると考えるのが妥当であろう。
PDFファイル名 013-01-1104.pdf


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